sakeいまでも連載しているかはわからないが、「酒の細道」という漫画がある。
作者はラズウェル細木といって、ほかにも何本かグルメ漫画を描いている。
タイトルにもある通り、俳句が趣味の酒好きな主人公が、様々な場面でいろんな酒を飲んでいく。
そしてラストシーンで一句。
よく考えると、吉田類の「酒場放浪記」も同じパターンだ。

単行本には作者の酒にまつわるエッセイも載っている。
あるときそこに「池波正太郎の食のエッセイが大好きだ」というようなことが書いてあった。
池波正太郎といえば「鬼平犯科帳」「剣客商売」などで知られる国民的大作家だ。
その頃は、池波正太郎のエッセイなんてのは見たこともなかったので、どんなものなのか読みたくてたまらなくなった。
しかし、今のようにネットで探すということもできない時代だったので、本屋へ行っては池波正太郎の棚を探していた。

ikeで、最初に見つけたのが「食卓の情景」
これがまた抜群に面白かった。
それから続けて「むかしの味」「散歩のとき何か食べたくなって」と手に入れた。
健啖家で知られた池波正太郎は、酒もイケるけど甘いものもイケる。
和洋中なんでもイケるし、大量にイケる。
とんかつを肴に熱燗をのむ場面なんてのもあるが、池波正太郎が書くと、とんかつの脂身を熱燗がスーッと流していくのが目に浮かんでくるようだ。
店のチョイスも素晴らしい。
構えの大小、歴史、伝統なんてところでは一切判断しない。
料理をつくる人、それを運ぶ人、接待する人、そしてそれらを全部含めた店の佇まい。
心の持ちよう
、それを大切にしていたようだ。

なにしろ文章に品があって、どんな食べ物、店を取り上げても、こちらの食欲を刺激する。
たとえば「私が映画の試写があった日の帰りなどに、[たいめいけん]に立ち寄り、二階の一隅の椅子にかけて、先ず、帆立貝のコキールと、ほどよく焼けたパンとで、ビールをのむとき、いい知れぬやすらぎをおぼえる」なんてのを読むと、今すぐにでも真似をしたくなる。
この文章を書いた頃の池波正太郎は五十代後半
今の自分とほぼ同じぐらいの年齢かと思うと、その差に愕然となる。
まさに大人と子供ほどの違いがある。

ああ、いつになったら池波正太郎みたいな粋な大人になれるものやら・・・。
一生涯無理だろうな・・・。
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